当メディア監修のdotDも参画した新規プロジェクト/新規事業のご担当者にインタビューを行いました。新規事業の立ち上げまでの流れやプロセス面でうまくいった要因など、お話いただきました。

一般社団法人自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター(ABtC)
欧州では2019年12月に「グリーンディールとデジタル化」戦略が欧州委員会により公表されました。これに伴い、EV(電気自動車)などで使用される蓄電池に関して、ライフサイクル全体(資源調達から製造、使用、廃棄に至る全工程)のCO₂排出量や環境・社会リスクを正確にトレーサビリティ(追跡可能性)管理することが義務付けられることになりました。
この新規制は、段階的に厳しく施行されます。
2025年8月以降:サプライチェーンにおけるデューデリジェンス(環境や人権などのリスク評価)の義務化
2025年後半以降:カーボンフットプリント(CFP)のデータ提供義務化(情報開示の義務化)
2027年以降:電池パスポート(製造履歴、材料調達、環境リスク情報などを含む情報)の導入

欧州で新たに始まる環境規制によって、自動車メーカー(OEM)各社は、サプライチェーンのCO₂排出量を明確に開示することが求められるようになりました。ただ、OEMが部品調達契約を結ぶのは一次サプライヤーだけであり、サプライチェーンが繋がっていても契約のない二次以降のサプライヤーも含めてすべてOEMがすべてコントロールできるものではありません。逆にサプライヤーの立場からは、たとえ規制対応が大義にあったとしても、自身の調達先や製造工程を明らかにすることには、ビジネス上の不利益につながりかねない懸念があります。
また個々の企業がバラバラに対応すると、サプライチェーン下流に様々な顧客を持つ企業は様々なフォーマットやシステムに対応せざるを得なくなり、設備投資やIT投資、日々のオペレーションで大きな負担を抱えることになります。こうした背景から、OEMだけでなく、自動車部品やバッテリー業界の団体も含めて、業界全体で取り組まなければならないという認識が広がっていきました。
そこで、政府やアカデミアのご支援もいただきながら、産官学のプロジェクトが発足し、サプライチェーン全体で必要な情報を安全に共有できる仕組みを作ることになったのです。その成果を業界横断で中立的に運用するためにABtCが設立されました。
OEMや部品メーカーが協調して動く必要が生じた背景として、そもそも今回の欧州規制は個々の企業が単独で対応できるものではなく、サプライチェーン全体を巻き込んだ取り組みが必要だったことがあります。
実際に、メーカー各社が個別にバラバラで規制対応を進めてしまうと、サプライチェーン各社の負担が増えて混乱が起こります。例えば、部品メーカーにとっても、各OEMごとに異なるルールやシステムが導入されてしまうと、現場の負担が非常に大きくなり、効率的な対応が困難になります。
そのため、日本自動車工業会(自工会)、自動車部品工業会(部工会)やBASC(電池サプライチェーン協議会)など各業界団体のメンバーが一堂に集まり、業界横断的なチームを作ることになったわけです。業界全体で統一した仕組みを作ることが必要で、それがサプライチェーン全体の利益につながるという共通認識があったことが協調の背景となりました。

業界団体と国それぞれが明確な役割を持って取り組みを進めました。
業界団体としては、日本自動車工業会(JAMA)、自動車部品工業会(JAPIA)、電池サプライチェーン協議会(BASC)が中心となり、業界全体で課題意識や実現のための要件をワンボイスにする役割を担いました。これらの団体で業界横断的な検討チームをつくり、サプライチェーンにおけるデータ連携の仕組みやルールづくりを進めました。
一方で、国(経済産業省、IPA DADC=独立行政法人情報処理推進機構 デジタルアーキテクチャ・デザインセンター)は、企業間の情報共有の安全性・秘匿性を確保する仕組みづくりを強力にご支援いただきました。IPA DADCの配下に、産官学プロジェクトが設置されるとともに、その具体的な成果としては、取り組みの全体像である「アーキテクチャ」を定めるガイドラインや、実際の運営を行うための「モデル規約」の整備が進められました。またプラットフォーム運営に対するガバナンスとして、「公益デジタルプラットフォーム運営事業者」認定制度を国が創設しています。
このように、業界団体が課題の明確化や解決の取り組みで自ら汗をかき、国が大所高所から全体像を整理するとともに、安全性や公平性を確保する役割を担うことで、業界横断的な連携をスムーズに進めることができたのです。
先ほどもお話しした通り、企業間の取引情報は非常に秘匿性が高く、調達先や生産工程が明らかになると、企業の競争力に悪影響を及ぼしかねないという課題がありました。
そこで、業界全体で議論を進める中で重要だったのが、「安全な情報共有を担保する」ことでした。単に技術だけでなく、規約やガバナンス、中立の運営主体など様々な観点からの仕組みづくりを行い、その結果として、企業が必要最低限のデータだけを安心して共有できるプラットフォームが構築できました。

サプライチェーンの各企業が連携して欧州の規制に対応するには、特定の立場に肩入れしない中立的な組織が自動車業界として非常に重要でした。ABtCを設立したのは、まさにこの要請によるもので、業界全体が協力して課題に取り組む場を作るためです。
設立当初から、「業界横断的にプログラムを立ち上げ、各団体が同じ土俵で意見を出し合い、最後はデジタル時代に求められるスピードで物事を決定する」というビジョンがありました。特に自動車や蓄電池のサプライチェーンには機微な情報が多く含まれますから、企業が安心してデータを提供し、共有できる環境づくりが不可欠だったのです。
ABtC設立の前には、業界横断のスタディグループや情報処理推進機構に設置された産官学プロジェクトが運営され、実際に仕組みを構築するフェーズに入っていました。こうした活動を経て、企業が自発的かつ積極的に参加できるプラットフォームとしてABtCを設立することになったわけです。
dotDさんは業界横断の取り組みが始まる前から、この領域でいちはやく取り組みを進めていらっしゃいました。欧州の新しい動きへの対応について様々な企業が二の足を踏む中、素晴らしい決断力だったと思います。
また今回の取り組みは、様々なステークホルダーが繋がりあって大きなエコシステムを作る取り組みですが、dotDさんはシステム開発やPMOといった個別のシステム開発の枠を超えて、エコシステム作りの様々な場面でご活躍されました。取り組みの中でdotDさんが皆さんと一緒に解決した課題が、プラットフォームや実証、海外との協調、ABtCの運営など様々なところに息づいています。
ABtCとの関係で申し上げると、私達プラットフォーム運営事業者とdotDさんを始めとしたアプリケーション事業者の皆さんとの共創が、取り組み当初には想定しなかった機能を生み出すことに繋がり、それが内閣総理大臣賞という栄誉につながったと思います。
ABtCが推進する『ウラノス・エコシステム』は、自動車や蓄電池のサプライチェーンにおけるCO₂排出量や環境リスクなどの情報を、企業間で安全に共有できる仕組みを構築した取り組みです。
今回、この取り組みが産業界全体にとって非常に重要かつ社会的インパクトの大きいプロジェクトとして高く評価され、日刊工業新聞社主催の『第54回日本産業技術大賞』において、最高位の「内閣総理大臣賞」を受賞しました。同賞は、スーパーコンピューター『富岳』や『Suica』など、日本を代表する技術革新が過去に受賞しています。
今回の受賞はABtC単独ではなく、NTTデータグループ、ゼロボード、dotDといったシステム開発企業に加え、経済産業省・IPA・NEDOなど、多くの官民関係者の連携が評価されての共同受賞となっています。
こうした官民連携による受賞は、産業界においてデータ共有の重要性を再認識させ、日本の自動車産業が世界市場においてさらなる競争力を確保していく上で、大きな弾みとなるものと期待されています。
今回の受賞については、私たち自身も最初はまさか内閣総理大臣賞をいただけるとは思っていませんでした。というのも、私たちは業界や社会の課題解決を最優先に取り組みを進めており、必ずしも「産業技術」を開発することが目的ではなかったからです。もちろん取り組みの成果として生まれた技術がいくつもありますが、決して技術開発にフォーカスしていたわけではなかったのです。
振り返って考えてみると、授賞式のご挨拶でも申し上げたのですが、「アーキテクチャ」が成果のカギだと考えています。ビジネスやデジタルを含む全体のアーキテクチャを描き、それをエコシステムとして構築することで、様々なステークホルダーが分散しながらも連携し、共通の目的に向かって動くことができます。それが「ウラノス・エコシステム」の目指す姿であり、これを先行ユースケースとして社会実装したことが、エコシステムづくりを一緒に取組んだdotDさんを始めとした皆様との共同受賞につながったのだと思います。
関係者の皆様に非常に喜んでいただくとともに、私たちと現在繋がっていない方々からの私たちの活動に対する関心や理解が深まったように感じています。自動車産業は裾野が広く、これから取り組みの仲間の輪をもっと広げていかなければなりません。今回の受賞が様々な方に改めてデータ連携やトレーサビリティの重要性をご認識いただくきっかけになれば幸いと思っています。

欧州規制への対応は最終ゴールではなく、あくまでスタート地点と考えています。次の規制にも対応していく必要がありますし、規制対応だけでなく市場変化に対応して産業競争力を高めていくことが何よりも重要と考えています。
今後特に重要になるのは、「資源循環」のテーマです。自動車のライフサイクルアセスメント(LCA)や、使用済み蓄電池のリユース・リサイクルを始めとして、これから新しい取り組みを進めていく方針です。
しかし道程は平坦ではないと考えています。自動車のバリューチェーンはグローバルにわたり、日本で生産した自動車は新車や中古車の形で海外に流出していくケースが多いため、日本の必要とする資源循環はグローバル規模で実現しなければならないからです。こうした分野での新たな取り組みを通じて、日本の産業全体の競争力向上につなげていきたいと考えています。
欧州での厳格な環境規制は、日本の自動車業界にとって大きな転換点となっています。今回ご紹介したABtCは、こうした難しい規制対応を契機として、自動車メーカーや部品メーカー、さらには国を巻き込み、中立的な立場でサプライチェーン全体を支えるデータ連携基盤を構築しました。業界を超えて安全・安心にデータを共有できる仕組みを整備したことで、個社の競争力を守りつつ、日本の産業競争力全体を強化するモデルケースとして高い評価を受けています。資源循環やリユース・リサイクルといった新たな領域への対応も進んでおり、今後の展開にますます注目が集まりそうです。
引用元:dotD公式HP(https://dotd-inc.com/ja)
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