新規事業における魔の川、死の谷、ダーウィンの海とは?

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新規事業を立ち上げる際、非常に優れたアイデアや技術力があっても、実際に事業化し、市場で成功を収めるまでには数多くの壁を乗り越える必要があります。 これらの壁はしばしば「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」という3つの比喩で語られ、それぞれが研究開発から市場投入、そして競争環境での生き残りまでのプロセスを象徴しています。 これら3つの段階をうまく切り抜けるためには、技術面だけでなく、マーケティングや資金計画、組織運営など、総合的なアプローチが求められます。 ここでは、初心者の方でも理解しやすいように、魔の川、死の谷、ダーウィンの海の意味やそれぞれの事例、そして乗り越え方について順を追って解説します。

魔の川・死の谷・ダーウィンの海とは?

新規事業の領域では、研究段階から事業化、さらに市場競争の中で生き残るまでのプロセスにおいて、大きく3つの関門があるとしばしば言われます。 これらが「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」であり、一連の流れを体系的にとらえる上で非常に便利な概念です。 技術をもとにして事業を起こす方や、大学や研究機関で見つかったシーズを商品化しようとする企業にとって、これら3つの関門を的確に把握して対策を講じることは、成功確率を大きく左右します。

魔の川とは?

「魔の川」とは、基礎研究や新しい技術のアイデアを、実際の応用研究や製品化の段階へ移行させる際に生じるギャップを指します。 研究レベルで画期的な成果が出たとしても、それをそのまま製品やサービスとして世の中に送り出すのは難しいものです。なぜなら、学術的な評価と、一般消費者や企業が望む価値は必ずしも一致しないからです。 たとえば、大学の研究室で画期的な材料が開発されても、市場のニーズに合わなければ、ただの「実験結果」に留まってしまいかねません。 また、特許取得や技術評価が一見順調に進んでいても、本当に使える形に落とし込むためには、さらなる改良や追加の開発が必要になるケースが多く見られます。 このように、研究成果を実際の事業レベルに引き上げる時点で起きる技術面・市場面の乖離が「魔の川」の本質です。

死の谷とは?

「死の谷」は、ある程度製品化のめどが立ち、プロトタイプや試作品が完成したあと、いざそれを本格的に事業として展開しようとする段階での障壁を表す言葉です。 市場に出すには、大量生産のための設備投資、広告・販促、販路の確保など、さまざまな経営資源を投入する必要があります。 しかし、スタートアップや中小企業には多額の資金調達が難しい場合が多く、それゆえに「死の谷」で力尽きてしまう事例は後を絶ちません。 さらに、開発に手間取っているうちに競合他社が類似サービスを出していたり、予定より販売開始が遅れて需要の波に乗り遅れたりすることもあります。 この段階では、どれだけ魅力的な商品やサービスを用意したとしても、投資家や社内の資金的サポートが得られないと、事業そのものがストップしてしまうリスクは高いのです。

ダーウィンの海とは?

「ダーウィンの海」とは、製品やサービスが実際に市場へ投入され、一定の販売実績を積む段階まで到達した後に直面する競争の荒波を指します。 たとえ製品が新しく斬新であっても、競合他社がすぐさま追随したり、別の優れたアイデアが市場に現れたりするのがビジネスの世界の常です。 このステージにおいては、顧客のニーズが移り変わるスピードも速いため、現状に安住しているとあっという間にシェアを奪われてしまいます。 ダーウィンの進化論になぞらえて「適者生存」が求められるこの段階では、継続的な製品改良、マーケティング強化、新しい市場セグメントへの展開などを機敏に行い、常に変化に対応する力が欠かせません。

魔の川、死の谷、ダーウィンの海の事例

魔の川の事例

A社の電話機能搭載腕時計開発プロジェクト

A社は「電話機能を備えた腕時計」を作るため、小型化技術の研究に力を注いでいました。ところが、電話機能を完全に腕時計サイズに収めるには予想以上の工数やコストがかかり、開発がなかなか進みません。 そうこうしているうちに、市場ではスマートフォンと連動するスマートウォッチが登場し、多くのユーザーがそちらに流れてしまいました。A社は最終的に開発を断念し、長期間投入していた労力や予算を回収できずに終わったのです。

この事例では、研究に時間をかけすぎた結果として、競合商品の台頭や消費者のニーズ変化に対応できなかった点が「魔の川」の要因となりました。技術面の優位性があっても、スピーディーに市場投入できなければ、同様の機能を持つ別の商品にシェアを奪われるリスクは少なくありません。

参照元:株式会社リブ・コンサルティング公式HP(https://www.libcon.co.jp/column/promoting-new-businesses-through-case-study/)

死の谷の事例

価値の方向性がずれていた事例(B社)

B社は電話機能を搭載した腕時計をリリースしましたが、開発費や生産コスト、販促費に膨大な資金を投じたわりに、購入意欲を示す顧客はごく一部に留まりました。売上が計画を大きく下回り、やむなく商品を市場から引き上げることになります。しかし、一度投入した生産設備や人件費などはムダになり、企業として大きなダメージを被りました。

このケースでは、技術やアイデアが優れていても「顧客がどんな価値を求めているのか」を十分に調べきれず、結果的に誰も望まない製品をつくってしまった点が「死の谷」にはまった要因といえます。

予算不足が原因で失敗した事例(C社)

C社は電話機能の小型化技術に定評がありましたが、開発を継続するための予算獲得がままならず、社内の承認を得るのに時間がかかりました。そうしている間に、別の企業が似たような腕時計型デバイスを先行して発売し、マーケットを先取りしてしまいます。結果としてC社の開発計画は停滞し、このプロジェクトは立ち消えとなりました。

これは、経営層や組織の意向をうまく取り付けられずに資金が確保できなかったため「死の谷」を乗り越えられなかった典型例です。予算や人材などのリソースを十分に確保できず、意欲だけでは乗り切れないケースは珍しくありません。

成果が長期間出せずに失敗した事例(D社)

D社は長年「電話機能付きの腕時計」を研究してきましたが、開始から3年たっても売りとなる目新しい成果を出せずにいました。開発チームは日に日にモチベーションを低下させ、やがて大半のスタッフがこの開発プロジェクトへの興味を失ってしまいました。

大きな技術的ブレイクスルーを目指す場合、時間がかかること自体は珍しくありません。しかし、組織の士気や投資家の信頼を保つには、途中経過を適切に報告し、小さな成果でも段階的に示す工夫が必要です。長期にわたり目立った進歩がない状況は、死の谷に落ちる一因となります。

実際に死の谷に落ちてしまったアプリの例(CHIP)

2018年8月にローンチされたファンクラブ作成アプリ「CHIP」は、リリース当初4万人を超えるユーザーを集めましたが、翌年にはサービス終了を余儀なくされました。要因としては、ファンが求めていた価値をじゅうぶんに研究しきれなかったことや、ビジネスモデルが明確でなかったことが挙げられています。

顧客のニーズを深掘りしないまま事業をスタートさせると、資金や労力を投じても十分な成果が得られず、そのまま「死の谷」へ転落するリスクが高いという典型的な例です。

参照元:株式会社リブ・コンサルティング公式HP(https://www.libcon.co.jp/column/promoting-new-businesses-through-case-study/)

ダーウィンの海の事例

E社の電話機能付き腕時計の苦戦

E社は電話機能を組み込んだ腕時計を早期に市場投入しました。しかし、実際には顧客が求める機能やデザインと合致しなかったため、販売当初はほとんど注目を集めません。後から徐々に認知度が上がる兆しは見られたものの、同時期に競合他社が新たなスマートデバイスを投入してきたことで、最終的には赤字でプロジェクト終了となりました。

このケースでは、「時代のニーズ」を正しく見極める前にリリースを急いだこと、そして市場が本格的に立ち上がる前に製品を出してしまったため、競合にアイデアだけ真似されてしまった点が敗因と言えます。

ダーウィンの海を克服したリチウムイオン電池の例

リチウムイオン電池は1980年代から技術開発が進められていましたが、当時はパソコンや携帯機器の市場が十分に成熟しておらず、大きな売上にはつながりませんでした。しかし研究を断念せず、需要拡大のタイミングを待ち続けた結果、ノートパソコンやスマートフォンが爆発的に普及したときに、すぐに量産体制を整えて市場を席巻することに成功しました。

参照元:株式会社リブ・コンサルティング公式HP(https://www.libcon.co.jp/column/promoting-new-businesses-through-case-study/)

魔の川、死の谷、ダーウィンの乗り越え方

魔の川の乗り越え方

魔の川を超えるためには、まず技術開発の初期段階から「この技術はどのような課題を解決できるのか」「市場のニーズに合致しているか」を意識する必要があります。研究機関やベンチャー企業の場合、どうしても技術そのものの新規性や学術的価値に注目しがちですが、実際にお金を払って買ってもらうためには具体的なメリットが求められます。

そのために有効なのは、開発チームとマーケティング担当、あるいは実際のユーザー企業との連携を早い段階から図ることです。試作段階でユーザーに触れてもらい、フィードバックを集めることで、実運用での問題や求められている機能をいち早く把握できます。また、産学連携やオープンイノベーションの形で外部リソースを活用するのも有力な方法です。大学の研究結果を企業が受け取り、製品化のノウハウを組み合わせることで、魔の川を渡りやすくなります。

死の谷の乗り越え方

死の谷を超えるカギは、早い段階で事業性を検証し、投資家や社内の意思決定者に対して「市場に十分な需要がある」という説得力のあるデータを提示することです。テストマーケティングや小ロット生産による市場の反応確認は、資金の説得において大きな威力を発揮します。

また、補助金や助成金の活用、ベンチャーキャピタルだけでなく事業会社との資本提携など、資金調達の方法を多角化することも重要です。資金調達を単一ルートに絞ってしまうと、想定外のトラブルが起きた際にすぐ息切れを起こします。事業を縮小して小さく始める戦略も選択肢の一つですが、いずれにしても「売上が立つまでの期間」を見据えた資金計画と継続的な改善プロセスを回すことが死の谷克服の要所となります。

ダーウィンの乗り越え方

ダーウィンの海を泳ぎ切るには、常に市場の変化を追い続ける姿勢が不可欠です。技術やアイデアは、一度成功したからといって安心しているとあっという間に他社が追いつき、さらに上回る製品やサービスを投入してきます。顧客の声を吸い上げ、新機能の追加やコストダウンの工夫、サービスの拡張などを躊躇なく行う柔軟性が勝敗を分けます。

加えて、有効なマーケティング戦略を駆使し、顧客との接点を持続的に増やしてブランド力を育てることも大切です。市場に出た後の戦いは、単なるアイデアの優位性以上に、スピード感のある改善と発信の継続力が問われます。

魔の川・死の谷・ダーウィンの海を超える準備と対策

魔の川、死の谷、ダーウィンの海を乗り越えるためには、それぞれの関門に特化した対策を講じるだけでなく、全体を俯瞰して計画的に進める視点が重要です。研究段階では技術の実用化を意識し、事業化の段階では資金調達と組織体制を強化し、市場投入後は継続的な製品改良と販路拡大を同時に推進するなど、一貫した戦略が不可欠となります。

さらに、社内外の連携を積極的に進めることも大きな助けになります。大学や研究所、他社との共同開発の枠組みを活用すれば、一社だけでは用意できない技術やノウハウ、資金が手に入る可能性があります。とりわけ、オープンイノベーションの発想は、大企業だけでなくベンチャーにも有用です。互いの強みを補完し合うことで、魔の川で止まっていた技術が息を吹き返し、死の谷を乗り越えるための投資も得やすくなるでしょう。

自身が専門としていない領域や、これまで触れたことのない分野での経験はなかなか積めないものですが、経験豊富な人材からの助言は大変貴重です。

まとめ

新規事業の世界には、「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」という3つの象徴的な関門が待ち受けています。これらは決して抽象的な話ではなく、研究開発が事業化・市場投入まで至る際に、現実的に直面する大きな課題です。いずれの段階でも、技術力だけに注目せず、市場のニーズや資金計画、組織体制、そして継続的な改良や発信を意識しながら進める必要があります。

魔の川を突破するには、研究成果を社会に実装するための視点が欠かせません。死の谷を超えるためには、事業化のための資金確保や実行体制の強化が勝負どころです。

そして、ダーウィンの海を渡りきるには、不断の改良や顧客ニーズの変化に合わせた柔軟な対応が求められます。どの段階においても、外部との連携や専門家の活用はリスクや不安を軽減する効果的な策になります。

新しいことに挑戦する際には、不確実性や困難はつきものですが、それに立ち向かうための具体的な手法を持っていれば、成功の確率は格段に高まります。 「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」という3つの存在を理解し、しっかりと対策を講じながら進んでいけば、新規事業はより確かな道のりをたどることでしょう。

困難の先には大きな機会が待っています。失敗を恐れず、前進を続けることが未来を切り開く鍵となります。

監修
株式会社dotD
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引用元:dotD公式HP(https://dotd-inc.com/ja)

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2018年の創業からわずか5年で50件以上の新規事業に携わっている気鋭の企業。そこで培った経験やノウハウから新規事業のプロセスに関する課題の解決策、一定の成功パターンを熟知している会社です。